PEQ Montreal
モントリオールで親子留学・海外就職・永住全部目指すブログ
カナダ(モントリオール)生活

だれがこどもを守ってくれるの?ー 映画『ぼくたちのムッシュ・ラザール』(原題:Monsieur Lazhar、2011年)を観て

親にとって一番大事な仕事がこどもを守ることだとしたら、私は赤点必至の落第生だ。自分ではこどもたちを愛して一生懸命守ってきたとある時期まで自負していたけれど、それがとんでもない勘違いだったと気づいた。

でも、もしかしたら、どの親も多かれ少なかれ、途中で自分の失敗に気づいて苦い思いをかみしめているのかも知れない。親ではない人であっても、人間関係の中で守ってあげたかった人を守り切れなかったという苦しい経験を持つ人も、ひょっとしたら結構いるのかもしれない。

こども時代はいつも危険にさらされている。ライ麦畑で崖から落ちないようにつかまえる人が本当にいてくれたらいいけれど、子供はいつどこでどんな崖に踏み込むかわからない。

こどもに経験してほしくないようなネガティブなことが起きてしまった時、どう対処したらいいのか、大人も悩み苦しむ。「対処」と言っている時点ですでにだめなのかもしれないけど。

こんなことを考えていたのは、『ぼくたちのムッシュ・ラザール』(原題:Monsieur Lazhar、2011年)というケベックの映画を観たからだ。

モントリオールのとある小学校の教師が教室で自らの命を絶った。そのことを知り、突然大好きだった先生を失い苦しむ生徒たちと、教師の後任を志願したアルジェリアからの移民の教師ラザール先生との交流、またこの事件に対処しようとする周りの大人たちの様子が描かれている。

事件が起きて学校がまず行ったのは、教室の壁を違う色に塗り直し、女性教師の思い出につながるものを教室からすべて排除したことだった。物理的に他の教室が空いていないため、生徒たちは壁の色が変わった同じ教室で勉強を続けていく。

またカウンセリングの専門家をつけて、生徒たちの心のケアに取り組む。こどもたちがどのようなカウンセリングを受けたかは映画の中では明示されない。カウンセラーは生徒たちとのグループセッション中、後任の先生も閉め出し、また観客にもその様子は見せてくれない。教師の仕事は教える事であり、親の仕事は育てることで、教師も親も心理学の専門家ではないのだから、心の問題は専門家に任せるべきという考え方だ。しかし、グループセッションでクラス全員が一緒にカウンセラーと話をしている時点で、恐らくこどもたちは本当の気持ちを誰かに話す機会を持たないままでいるのではないかと想像される。

大人たちはそれぞれの立場からこどもを守るために必死でがんばっているのだが、一旦心についてしまった傷を癒すのは難しい。また、こどもを変に刺激しないようにとの校長の配慮により、ラザール先生は亡くなった人について生徒たちと話すことを禁じられる。

ラザール先生自身も実は一般的な移民ではなく、難民であり、大切な家族の喪失を経験したばかりであり、彼も実は大きな苦しみを抱えている。

映画はラザール先生がこどもたちの心を少しづつ開いていきながら彼らの思いを吐き出させていき、その中で自分に起きた悲しい事件についても折り合いをつける糸口を見つけるようなエンディングとなっており、暗いテーマではありながらただ悲しいだけの映画ではなく、希望のある展開となっている。

カナダの人達は気立てがよくて小さなことにくよくよしない人たちという印象が強かったが、このような繊細な映画もあって私には驚きだった。また、現在のわたしの「地元」、モントリオールを舞台にしており、なじみのある風景が美しく描写されていたが、この映画が扱っている問題は多くの国に共通であり、他の国の人にも共感を得るだろうと思った。音楽も優しいピアノの音色が素晴らしかった。

残念ながらフランス語の機微を理解できる語学力がまだないので、このセリフの意味がしっかりわかるレベルになってもう一度見直したいと思っている。

現在カナダの映画の中では1番好きな映画となった。

ABOUT ME
ちえ子
カナダ在住。モントリオールで日本語教師とゲーム業界での仕事の二足のわらじで活動中。高校生、大学生との親子留学→PEQ(ケベック経験プログラム)で永住権取得。TOEIC 960点、実用英語検定1級、フランス語公式テストTEFAQB2合格。過去にクアラルンプール(マレーシア)で通訳、ロンドン(英国)で商社勤務経験あり。趣味はジャズヴォーカル、City Pop(1970-1980年代日本のニューミュージック)、コメディ映画鑑賞。イチ推し芸人はオードリー若林さん。
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