マレーシアの首都クアラルンプールの中心街にあるパサール・セニ駅は、巨大でがらんとした灰色の施設である。そこから一歩抜け、ジャラン・トゥン・サンバンタン(Jalan Tun Sambathan)通りに出たとたん、なじみの「アジア」が顔を出す。オフィスビルの合間に濃い緑がぼうぼうと茂る木々。様々な言語でごちゃごちゃとした看板を掲げ、軒を連ねる小商いの店。歩くだけで汗ばむような赤道直下の街の姿がそこにある。
一瞬の涼を求めて屋台で氷とコンデンスミルクがたっぷりと入ったテタレ・アイス(アイスミルクティー)を買う。持ち帰りのテタレはカップではなく透明なA5サイズくらいのビニール袋に直接入っていて、口を1㎝ほど残してビニールひもで結び、開いている1㎝からストローを挿してある。こちらの人のふりをしてこぼさないようにひもを口元まで持ち上げ、ストローで中の液体を飲む。
セントラルマーケットという名のお土産センターの中を観光客のふりで少し冷やかした後、レブ・プドゥ(Lebuh Pudu)通りに出てさらに北に向かう。レボ・パサールベサール(Leboh Pasar Besar)通りまで来たら、左折してクラン川を渡る。地質のせいなのかこの辺の川はみんなテタレ色の泥水だ。川沿いに歩くとまもなくRiver of Lifeという場所に着く。マレー語でクアラは「川の合流地」、ルンプールは「泥」のことだ。この「泥の川が交わる地」という名前の元になった場所に立つと、目の前にはイスラムのモスク、マスジッド・ジャメ(Masjid Jamek)が静かに立っている。
マスジッド・ジャメはクアラルンプール最古のモスク。それが混沌とした街の中心街に隠れるように存在している。20年前にもこのモスクを訪れイスラムの指導者に話を聞く機会を得たが、読誦時に使う経典は今ではコンピューターソフトなんだよとやさしい顔で笑っていたのが印象的だった。
【参考URL】
https://goo.gl/maps/ppomRXphjSeUxhPM7 閲覧日21/04/29
*本記事は現在履修中のコースの課題として過去に住んでいた街について書いた。そのため、モントリオールとは特に関連性がない。