最新の音楽情報に疎いので、このコンサートのことを2日前に偶然知ったばかりだった。
日本語クラスの生徒の一人が、坂本龍一が現在闘病中であること、2年ぶりのコンサートがオンラインで行われることを教えてくれた。
最初の世界配信の時間はモントリオール時間の2022年12月10日22:00から。
長女のアパートに行って、一緒に観た。
海外育ちの娘は坂本龍一のことをそこまで知らないが、『戦場のメリークリスマス』のテーマソングは、10年くらい前に所属していたミュージックサークルで演奏したことがあったので、この曲には多少の想い入れがあるといった感じだ。
今は1時間や1時間半のコンサートをやりきる体力がないため、一曲ずつスタジオで録音するとのことで、闘病の厳しさが想像される。
最初に大写しになったのは、細くて皺のある指だ。その指でむしろミニマリスト的にシンプルな旋律とコードの一音、一音を大切に弾いていく。たった一人で演奏しているのに、弾き終わりの動きはまるでオーケストラの指揮者のようだ。彼の中の曲の止めの作法なのだろうか。
一つひとつの音から万感の思いがしんしんと伝わってくる。
コンサートの始まりではわたしはこの演奏を二度と見られないかも知れない、もう次回はないのかも知れないといったメロドラマ的な悲しみに包まれていたが、次第に、彼の表現者としての姿勢の前にただ言葉をなくして見入り、聴き入るだけになった。
目の前に突きつけられた彼の生き様に圧倒される。彼はピアノを弾き続け、観ているわたしたちはただスクリーンの前で静まり返っていた。
彼のピアノは、ある時はとても日本的で、ある時はとてもアジア的でありながら、同時にすべてを超越したようなBeyondな存在だ。繊細で、優しくて、そして心の中に人々が抱えている悲しみと共鳴するような気がする。
多分感じていたのは畏敬の念だったのだと思う。存在自体が恐れ多いような尊敬とでもいうのだろうか。こんな気持になったのが初めてで、言葉を探してしまった。
うーん、さすがです、教授!
#ryuichi_sakamoto #chienowajapanese