PEQ Montreal
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ひとりごと・つぶやき

日本語プライベートクラス/学習のスタイルはみんな違っていい!

実は去年の夏から、日本語を教えている。その前からも、交換レッスンでフランス語を教えてもらって日本語を教える、ということをやってきたし、その前には英語習得の時にも交換レッスンをしていたし、家庭内では夫が日本語学習者ということもあり、相手のレベルに合わせて話し方を工夫したりすることには結構慣れている。

また、20〜30代の頃に日本で英会話スクールの講師をしていたことがあり、その頃英語の教授法を夢中になって習得した。日本語と英語では難しさのポイントが違うが、語学の教授法としては国際語の英語が一番進んでいるし、応用できるところも結構ある。

英会話教室で教案を書いたり教材を作ったり、マネジメントのスタッフと一緒にコミュニティを作っていくのが楽しくて、自分にとって天職じゃないかと思っていたこともあった。

そんな経験に支えられて、今は日本語のプライベートレッスンをしている。そんな中で、私は生徒のXさんに出会った。

彼は50代のケベコワ男性。恰幅がよく、いつも機嫌がよく、銀髪に青いマフラーが似合うダンディなしろくまさんみたいな感じの人だ。

初回のレッスンの後に、「どうでしたか?レッスンの進め方は大丈夫ですか?」と念の為確認をした。要望などあれば取り入れて行きたいと思ったし、プライベートなのだからその人にあったスタイルでテイラーメイドしていきたいと思ったからだ。すると彼は、一瞬間を置いてから、”I appreciate what you do.”(あなたがしていることをありがたいと思っていますよ)と言った。なんとなく、距離を置いたその言い方に、(ふーん、「これからお手並み拝見するよ」って意味かな)とふと思った。職業も人事のコンサルだというから、簡単には満足しないということなのかな、と気が引き締まる思いがした。

レッスンを続けていくと、あれ?っと思うことが結構出てきた。「げんき1」という教科書でクラスを取ったことがあると聞いていたので、さらっとおさらいしてからやっていない課に入ろうと思っていたのに、思ったよりすでに教わったことの定着が弱い。今練習している構文をフルセンテンスで言うことをすぐに忘れて、単語だけでコミュニケーションしようとする。

でも、日本語と日本に対する愛情がとても深く、熱心に自主学習してきてくれる。週末に3時間もかけて、教師側でもなかなか準備できないような形容詞の絵カードをiPADで作成してきたり、宿題の作文というか日記もがんばってiPADに手書きしてきてくれる。キーボードで打ち込んだ方が間違いも少なく、漢字などは書かないでもiPADが候補を出してくれるから、手書きソフトで一文字ずつ書くよりずっと楽なのに、それをしない。

そんなに努力をしているのに、なかなか構文が定着しない。それで、スパイラルの様に、前に習った構文を何度も何度もリピートし、結構しつこく(でも柔らかく)「単語でなく文で言ってくださいね」と念を押しながらやってきた。文字の習得に熱心なようだが、字を読むのにまだまだ時間がかかるようだったので、絵カードを多用して更にそこに文字も入れて、同じ基本動詞の活用を毎回フラッシュカードで練習したりしていた。

私と同年代なので、覚えては忘れるの繰り返しなのはお互い様。時間をかけて幅広くよりは基本の習得に力を入れようと方針を決めた。

ある日動詞の「てフォーム」(食べて、飲んで、言って、見てのような活用)を覚える回が来た。私は今まで使っていた動詞カードの単語を思いっきり書き出して、てフォームを見せていったので、全体的にものすごい量の文字数になってしまい、でき上がりを見て、(うわっ、圧倒されそうな文字の量になっちゃったな。辟易させちゃったかな)と心配になった。Xさんも、「てフォームはとても大事だから覚えなきゃいけませんね」と、覚悟を決めるような言い方をしていた。私としては、見慣れた単語を例として出すことで、パターンをつかんでくれればと思ったのだが、それは彼のようなタイプへの導入には逆効果だった気がした。その日は、もっと単語を厳選して、10個以下に絞ったら良かったと反省した。

レッスンも20回を越えたので、そろそろ教科書の文章を読む練習も本格的に入れていこうかな、と思い、あるページの練習問題のところを読んでもらった。すると、読みながら、何度も途中で「苦笑」って感じで笑い出す。ちょっと何が面白いのか理解ができなかったので、ふざけて「Xさん、教科書はおもしろいですか?」と聞いてみた。「おもしろい」という形容詞も習った後だったからだ。

そうしたら、彼はこれまでの禁を破り、初めてクラス時間に英語で話した。

「…僕は、Dyslexia(識字障害)があるんですよ。」

その時の、頭をガツンとやられたような感じを、どう表現すればいいだろう。衝撃的な驚きと、同時にすべてのピースがカチッとはまったような、謎が解けた感覚。と同時に、自分でそのことに気づけなかった悔しさ。知らなかったためにやってしまった、今覚えば効果が低くて彼を苦しめるだけだった数々の練習法に、胸が痛くなってきた…

私「最初からそのことを私に話していてくれたら良かったと思います…」これまでの20数回のレッスン、知っていたらもっと効果的に行う方法を調べられたはず。
私「これから、あなたにとって最も効果的な勉強法を調べます。」

最初のレッスンの後、”I appreciate what you do.”(あなたがしていることをありがたいと思っていますよ)と言ったのは、私のお手並みを拝見しようとしたのではなく、「自分がついていけるかはともかくとして」という意味だったのかも!と思い返した。ああ、何という勘違い…

そうしたら、続けて彼は言った。

X「小学生の頃、先生に言われました。『あなたは決して大学にはいけないだろう』と。でも、私はたくさん勉強して、大学に行きました。」
世の中には、なんと酷いことを言う教師がいるのだろう。しかも、事実とは違う。今回あやふやだった自分の理解を深めようと色々調べてみたが、識字障害は知能の障害ではなく、識字障害者とは脳の働き方が違うだけだ。読み中心の学習は苦手でも、メソッドを変えればその能力を伸ばすことはできる。おそらく40年以上前にそこまで研究が進んでいなかったから、その教師は彼のことを学習に適さないと断じてしまったのだろうか。

私「でも、なぜ日本語を勉強しようと思ったんですか?他にもスペイン語とか、あなたにとってもっと入りやすい言語があるのに…」
X「挑戦したかったんですよ。日本が好きだしね。」

いつもニコニコと機嫌のいい彼は、きっとそんな風になんでもないような顔をしながら、人の何十倍も努力して勉強を続けてきたのだろう。

帰宅して、下の娘に彼のことを話し、私は「これから識字障害のことを調べて彼に合うやり方にレッスンを変えていくよ」と断言すると、娘は

H「その人は、この人には話しても大丈夫とママのことを信用したから、話してくれたんだね。うーん、でもさあ、読むことを全部やめない方がいいと思うよ。その人はさあ、多分日本語がちゃんと読めるようになりたかったんじゃない?だから、今度から急にやり方が全然違うっていう風にならない方がいいと思う。」

私「そうかもね。まあ母親ってさ、こどものタイプに合わせて育て方を変えたりとか、教え方を変えたりとかするじゃん。だから、相手に合わせて工夫することには慣れてると思うのよね。だから、読むことももっと効果的にできるように、色々考えてみるよ。」

H「そうだね。でもさ、私が小さい時、色々質問した時私にすぐ答えを教えないで、『なんでだろうね?』っていつも言ってたじゃん。あれと同じだと思うんだよね。」

ん?そこ何か、関係あるのかな?

H「ああいう風にしてくれたから、私は自分で考えるようになったんだよね。その人もさ、自分で考えて、できるようになりたいんじゃない?」

つまり、娘は、私がすべてをお膳立てするのはよろしくないと。彼が自分で工夫して学んでいく余地を残した方がいいとアドバイスしてくれているのだ。大人になったなあ、私の娘…

余談になるが、この娘の意見にはちょっと心が温まったのだ。というのは、私はよく、この子から「ママはさあ、私が小さい時、なーんにも教えてくれなかったよね。」とからかわれていたから。こどもの素朴な疑問、例えば「どうして月は夜しか見えないの?」みたいな質問に、結構「うーん、どうしてだろうね…」で済ませてきたことがあったからだ。本当は理由があって答えていなかったんだけど、娘は、当時、私がグーグルでも何でも使って答えに白黒をつけてこなかった意味に、本当に納得してくれたらしいというのが、上のやり取りでわかったから。そう、ママはズボラなんじゃなくて、自分で考えてほしいって思ってたんだよ。(正直ズボラも多少あったけどねw)

そんなわけで、これからは、識字障害を持っていても苦しまずに学習できる工夫を取り入れつつ、本人が工夫をしていける部分も残した感じのレッスンを、Xさんと一緒に作っていくというのが、私の方針となった。

今回、Xさんにとっては大変プライベートで、彼が私に伝えるにもこれだけの時間をかけた識字障害という状態のことを、ブログに書こうかどうしようか迷った。でも、もし、識字障害について上に出てくる先生のような誤解を持った人がいたら、そんな人に伝えたいことがあるから、この文章を書こうと決めた。

識字障害について知りたい方への参考記事やビデオなど:

認定NPO法人EDGE 日本のサイトでディスレクシアについて紹介している
https://www.npo-edge.jp/

「読み書き障害」をもつ人が広告業界に多い理由:「脳内の配線が少し人と違うだけ」by DIGIDAY編集部
https://digiday.jp/agencies/im-just-wired-differently-advertising-seems-many-people-dyslexia/

人間の創造性について(ここにも識字障害の人の話が一部出てくる。識字障害者は実は大変創造性に飛んでいるということもありシェアしたい)日本語字幕あり

障害こそが人をクリエイティブにする(これは識字障害の話ではなく、障害や難しさがあることの効用を広く説明している)日本語字幕あり

 

本日のカバー写真は、Peel駅の近くにある隠れ家的カフェ。ここは、実は一階がブティックになっていて、下にひっそりとカフェコーナーがある。外に看板が出ていないので、ブティックに用があって入らなかったら多分見つけられない。仕事帰りにここで、美味しいコーヒーをいっぱい飲んで一休みするのにちょうどいい感じ。

 

ABOUT ME
ちえ子
カナダ在住。モントリオールで英日/日英翻訳を提供中。2019年4月から一念発起してウェブコンテンツライターとして修業中。高校生、大学生との親子留学→PEQ(ケベック経験プログラム)で永住権取得。TOEIC 960点、実用英語検定1級、フランス語公式テストTEFAQB2合格。過去にクアラルンプール(マレーシア)で通訳、ロンドン(英国)で商社勤務経験あり。趣味はジャズヴォーカル、コメディ映画鑑賞。

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