今日はヘンな順番で文章を書く。まだぺこぱのネタを見たことがない人は、1から6をまず読まないで、先入観が付く前に、せめて2019年M-1グランプリ(漫才の大会) 決勝のぺこぱのネタを見てから読み進めることをお勧めする。もし時間に余裕があるんだったら、2019年M-1決勝の番組を全部見たらもっと楽しめることを請け合う。
言葉、言語、発想力、創造力に関心のある、すべての方にお勧めする。
(まだ、ネタを見たことがない人は、7.まだぺこぱを見たことがない人へ だけ読んでもらっても、”悪くないだろう。”)
目次
1.ネタばれ注意、ぺこぱに度肝を抜かれた話。
2019年 M-1グランプリ決勝は、これまでの大会をはるかに上回る実力者揃いの、面白い大会となった。その中で、ぺこぱは10組中10番目。もうみんな笑い疲れ、絶対決勝進出間違いないレベルの3組が既に出ていた後だったし、それほど売れてもいなかったぺこぱが、ここで和牛を追い抜いて最終決戦に進出できる、上位3組に入れるなんて、考えていた人は本当に少なかったと思う。
かくいう私も、ぺこぱを見たのはこれが初めてだった。
出てきた途端に、向かって右側の松井さん(キャラ名「松蔭寺太勇」)の、場末のビジュアル系アーティストみたいなケバいルックスと、ワックスで立っている髪をひたすら振り続ける導入に(うわっ、ニガテなタイプの芸人出てきた)と感じる。期待値がますます低くなる。
それが、挨拶の終わりで、早くも、(おや?)と思わされる。見るからにヘンな人が、一見普通の見た目の相方のボケに対し、ツッコむか、と思いきや、それを肯定して包み込んでしまう。その肯定ポイントが、ことごとく日本のこれまでのお笑いのツッコミの常識と、日本社会がガッチガチに固めてしまった常識を覆していく様は、笑いと同時に「おおおおおお!!!」っという「覚醒」を起こしてしまう。しかも、驚くほどのイケボ(声がいい)だ。
2.キャラの向こうに見える人間性
M-1のネタは4分という制限時間があるのだが、3分過ぎの勝負所で、最初にやっていたひたすら頭を振る動きに戻るも、その頃には既に会場の共感を得ているので、今度は見ている方の反応がグンと温かくなっている。そこで、相方に「うるせー、キャラ芸人!」と言われると、「キャラ芸人になるしかなかったんだ!」と叫ぶ。ここで、私は完全に魂を持って行かれるw。その言葉に「体重が乗っている」、つまり、本当に魂の叫びとしてこっちのハートに刺さる。
この人は、今までどれだけの試行錯誤や苦しい時期を乗り越えて、こういうスタイルに行きついたのかという、私には見えないのに確かにそこにある走馬灯が頭をよぎった。見るからにウソっぽいキャラをかぶっていても、この人がこれまでやってきた人生の裏付けが一瞬のうちに見え隠れして、共感してしまう。笑いながらちょっと泣きそうになった。
3.お笑いを見てきたから余計ハマる
私は、漫才が大好き。漫才には型があり、創造性があり、ショートストーリーを読んでいるような起承転結の楽しさがある。言葉のセンスと間が重要。熟練した漫才師たちのネタに賭ける情熱と職人技の話芸には本当に敬服する。
私がお笑いを好きなのは、自分には人を笑わせることがなかなかできないと知っているからだ。すべての感情の中でも、人を「笑わせる」=楽しませることって、一番難しいんじゃないだろうか。人の心を動かすものって色々あるけど、できる事なら人を楽しませて動かしてみたい。優れた芸人はそこに長けているから、かっこいいな、さすがだな、とリスペクトしている。
また、社会に出てから、素晴らしい人たちとの出会いが多々あった中で、やはり人の心を動かす人の特徴として、ユーモアのセンスに長けている人が多い、ということを何度も見てきた。そんなこんなで、私はコメディが好きで、なぜ面白いのかってことをあれこれ考えることも大好きなのだ。
4.ぺこぱの立ち位置
そんな中、ぺこぱの漫才は、決して「熟練技」ではなく、伝統的でもない。一見、「色物」の雰囲気が強いし、関西勢が圧倒的な強さを見せる漫才の大会で、数少ない関東勢だし、優勝するような王道のネタではない。それでも、伝統芸である漫才の世界すべてを「フリ」として、ボケたらツッコむという型を覆した。
本来ボケは常識外れ、そのズレ感が面白いと感じるものを、そこってほんとにズレてるのか?と疑う視点で観客に問いかける。
これまでのツッコミまでも、そろそろ予定調和なんじゃないですか?という問いかけを、いかにもこの世のマイノリティ代表みたいな変なキャラの人が真っ当に肯定し始めるのが、変に説得力を増す。
世の中が多様性を求め始めている中、常識にとらわれずにすべてを肯定しようとする、今の社会に一番求められる力を具現化した漫才だ。常識でがんじがらめの社会、おかしなところがあるとツッコんで訂正したくなる人々の習性を温かく溶かすパワーがある。
5.松井さんが逆境の中で生み出した戦略
松井さん自身もどこかで言っていたが、この人は俯瞰で物事が見えている人なので、今の社会やお笑い界の現状をよく分析した結果、人々が求めていたのに気づいていなかったものを創り出せたのだろう。また、シュウペイさんというお笑いにまったく情熱がなかった人を相方として選び、彼の良さを活かす道を探りながら方向性を見つけていったのもよかったんだと思う。その人間としての温かさが、変なキャラの向こうに見え隠れしている、その辺のバランス感覚がたまらない。
その辺はこのカジサックさんのYouTube動画でいろいろ読み取れるので、こちらもどうぞ!
6.ぺこぱ上級者にお勧めの動画
M-1でぺこぱを見たという方には、他にもぺこぱにはいろんな引き出しがあることがわかる動画がネット上に出回っているので、興味があればぜひその世界を覗いてほしいなと思う。そして、ぺこぱ経験値が上がってきた時wに、これはほんとおススメ、と思うのは、最近松井さんが出したYouTube動画だ。ネタを作っている松井さん本人と、彼の舞台上のキャラである松蔭寺大勇が漫才をする、という設定のほぼ静止画のコラージュ動画だ。松井さん本人が手作りしているらしくコラージュの雑な切り取り感に対して、セリフの間合いにだけはとことんこだわった絶妙な動画だと思う。
まるで作者と小説のキャラクターが会話しているかのような面白さがある。ここでも松井さんの本音が見え隠れしているのが面白い。
そして、相方シュウペイさんが出ていないのにもかかわらず、内容はシュウペイさんのことについても語っていて、彼を思い、ねぎらう形にちゃんとなっているところも秀逸ポイントだ。シュウペイさんの役割を「誰にでもできる」なんて批判する人もいるが、松井さんが彼を活かすために苦心した結果として今の完成形が生まれたのだから、シュウペイさんの貢献度は実はとても高いと私は思っている。
7.まだぺこぱを見たことがない方へ
最近では漫才を元にしたウェブ広告などでも見かけるので、知らず知らずにぺこぱデビューwしてしまう可能性も高いかとは思うが、もし可能であれば、2019年M-1 グランプリ決勝戦のネタを、先入観なしで見てほしいと思う。ただし、これまでの漫才の型を知っていないと、この面白さを本当に理解することはできないと思うため、できるのであれば、少なくとも2019年M-1グランプリ決勝戦のかまいたち(USJ)、ミルクボーイ(コーンフレーク)、和牛(物件の下見)くらいは先に見てからのぺこぱがいいかも知れない。