PEQ Montreal
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ひとりごと的つぶやき

『夜に駆ける』原作『タナトスの誘惑』に私なりの続編書いてみた。

先回、『夜に駆ける』の原作小説、『タナトスの誘惑』に惹かれた、ショッキングな内容に鳥肌が立ったという記事を書いたんだけど。

そのことで、上の娘とちょっとした議論になった。
上の娘はアートのコミュニティを主宰していて、アートに関して全般的に造詣が深いヒトだ。

その彼女に言われた。
「日本ちょっと暗くない?」
そしてさらに言われた。
「この作品がよくないとかって意味じゃなく、死ぬことじゃなく、病気が治療されたり、問題がよくなることが結末、が普通な国や世の中に生きていきたい」

彼女は、暗い話があってはいけない、と言っているのではなく、明るい未来を信じられるような作品が大多数になってほしいと願っているようだ。もし、物語の主人公と同じ思いをしている人がいた時に、その人に絶望ではなく、光を与えられるストーリーが、身近に転がっているような世界。そんな世界に変えていく力がアートにはあると、彼女自身が信じて活動しているということなんだろうと思う。

それを聞いて、私なりの返歌をこの世に送り出したいと思った。現実からは離れすぎず、信じられる明るい未来。

そんなことを考えて、自分なりの『続・タナトスの誘惑』を書いてみた。

必要な人が見てくれればと思い、『タナトスの誘惑』が掲載されたのと同じサイトに投稿した。ここにも載せておこう。

続:『タナトスの誘惑』

その時、SNSメッセージの着信が場違いな音を立てた。
携帯をポケットから反射的に取り出した時、彼女の、空気を壊さないくらいの小さな優しい声が聞こえた。「見ないで…」
間に合わずもう目に入っていた携帯の画面には小さく、アイツの顔のアイコンが笑っていた。
やっと彼女と心が一つになれた瞬間だったというのに、心がザワザワし始めた。
(え?なんでこんな夜中にアイツから…?え、なんで今…?)

それは、僕がまだこんなに疲れ果てていなかったあの頃に、毎日バカ言って笑い合っていた連れだった。

いやでも、最後に話してから何年経ってるんだ?僕もアイツもお互いのことなんか思い出しもせず、新しい街で生きているはずなのに。

「ごめん、このメッセージだけは読んでからでもいい?」
「お願い…私だけを見ていてほしいの。あなたを失いたくない…」
「メッセージを読んだからって僕を失うことになんかならないよ。」
アイツもしかして、何か大変なことが起きて僕のこと急に思い出したのかも…
それともふと思い出しただけなのかも…いや僕にだけじゃなくてフレンドみんなに一斉送信しただけってこともあるし…

でも今、この中身を見ないで「夜に駆け」出してしまったら、気になりすぎて思いが残ってしまう。

僕は、そのメッセージを開けた。
「きみみたい」と書かれたメッセージには、動画がついていた。
(どういう意味だ?アイツがこの動画を見て僕を思い出したってこと?)

彼女が言う。
「ねえ、私の方を見て…あなたが必要なの…携帯をしまって。」
僕は、彼女の手を握り返して言う。
「少しだけ…待ってくれるかい?動画を見なかったら一生後悔しそうだよ。」まるであと百年も生きるような言い草だな、と思いながら。

僕はその動画を再生した。

動画は、意味をなさなかった…
…思えば、アイツが僕のこと、「きみ」って呼んだことなんか、一度もなかった。

アイツのアカウント、乗っ取られてるらしい…

多分アイツも、誰かから来たメッセージを、好奇心に駆られて、開けてしまったんだろうな。
今の僕のように。本当に不用意なヤツ。

なんか、バカみたいだな。何年も会っていないアイツが今のちょうどこの瞬間に奇跡のように僕にメッセージを送ってくるはずがないじゃないか。

僕は、何を待っていたんだろう…マヌケ過ぎて大笑いだ。

ふと我に返り彼女を見る。こんな大切な瞬間に僕が忘れてしまった彼女。
なぜだろう、彼女の輪郭がぼやけている。

「残念だわ…あなたとは一つになれる気がしていたのに…」
僕の気がそれてしまったから、僕は彼女と「夜に駆ける」資格を失ってしまったのか…

「ごめんね、許してくれ。」
「いいえ、許さないわ…あなたと一緒に行きたかったのに。」
「悪かった、きみを愛していた。」
「あと少しで、一つになれたのに…残念だわ。」

彼女はひとりで「夜に駆け」て消えていった…

僕は真夜中だというのに、SNSから音声だけの電話を掛けた。
「おい、何やってんだ、アカウント乗っ取られてるぞ。お前アホだな。」
「…ああ、そうらしいな。悪い。」

アイツが言った。
「…イヤ、動画がお前から送られてきたんじゃなきゃ、開けなかったんだけど。こんな何年か越しでさ、何かあったのかと慌ててて…よく考えたらお前、俺のこと「きみ」なんか絶対呼ばねえよな。」

…お前には僕から来ていたのか…ま、それなら、気持ちわかるわ。
「で、お前…あれから、どうしてたんだ?」

 

ABOUT ME
ちえ子
カナダ在住。モントリオールで日本語教師とゲーム業界での仕事の二足のわらじで活動中。高校生、大学生との親子留学→PEQ(ケベック経験プログラム)で永住権取得。TOEIC 960点、実用英語検定1級、フランス語公式テストTEFAQB2合格。過去にクアラルンプール(マレーシア)で通訳、ロンドン(英国)で商社勤務経験あり。趣味はジャズヴォーカル、City Pop(1970-1980年代日本のニューミュージック)、コメディ映画鑑賞。イチ推し芸人はオードリー若林さん。
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